Tuesday, February 13, 2007

「不払い罰則化」で問われるNHK、政府と視聴者の関係

JANJAN 2007/02/13

官邸主導をうたう、長期的視点に欠けた政策の最悪のケースがNHK受信料問題ではないか。総務大臣が、受信料不払いの罰則化と引き替えに、受信料の値下げをNHKに迫り、両者の対立が伝えられている。

気がかりは、総務大臣とNHK会長の対立としてメディアが伝える問題点が、値下げの余裕の有無をめぐる見解の相違となっていることだ。この場、一体、NHK会長は不払い罰則化については、承知なのか不承知なのか、その方が根本問題だからだ。

まさか「罰則化」をNHKから「お願い」したとは考えたくないが、政府から罰則の法制化を持ちかけられて、会長がきっぱり拒否したのか、拒否できなかったのか。もしかすると、総務大臣につけこむスキを見せてしまったのではないか。

このところ、値下げ問題中心に政府とNHKの対立が伝えられる空気から推測すると、NHK会長が、「罰則化」がNHKと視聴者の私的契約を原則とする受信料制度の根幹にかかわる問題であることを十分認識して、政府に対してこの点を注意喚起し、毅然と対応しているとは考えにくい。

昭和20年代以降、国民の合意の中で曲がりなりにも育ててきた公共放送制度の根幹を、あいついだ不祥事に誘発された収納率低下という、当面の危機回避を目的に、あっさり投げだしていいのだろうか。

NHKを国民の側に軸足をおく協同組織として維持し、時の権力から公共放送の独立を守るために、放送行政当局も、学者の助言を用いるなどして、それなりに中立性の維持に努力し、言論機関としてのNHKには曲がりなりにも一定の距離を保っていた(現総務大臣のような権力的な介入は、歴代大臣は注意深く避けてきた)。

NHKと受信者の間に、受信料の強制徴収制度などによって、国家権力が介入するという安易な解決を、現行放送制度の成り立ちを理解した先達たちが最後まで回避してきたからではないか。 

理由は明確だ。当時郵政省で新しい放送制度のとりまとめにあたっていた電波監理局次長の荘宏氏は、当時、受信機を設置したら自動的に契約とみなして支払い義務を負うようにすべし(強制徴収)という議論に対し、こうのべていた。

「このような制度の下においは名は契約であっても、受信者は単に金を取られるという受け身の立場に立たされ、自由な契約によって、金も払うがサービスについても注文をつけるという心理状態から遠く離れ、NHKとしても完全な特権的・徴税的な心理になり勝ちである。かくて、NHKは、国民の総意によって設立し、国民の総体的支援によって維持し、NHKはその支持にこたえて公共奉仕に努めるようにしたいという放送法の基本方針にそわないことになる」(荘宏『放送制度論のために』より)

NHK会長が、受信料の値引きに当てる原資があるなしの議論に引きずる込まれては、相手の思うツボだ。ここは、「不払い罰則化」反対を表明し、国民の側に軸足をおくNHKとしては、政権の介入を招く放送法の改悪には与しないことを国民に訴え、国営放送化の疑惑を晴らし、政府に正面から反論してほしい。 NHKと受信者の自由契約を基本とすることが、社団法人を出自とする日本の公共放送の守るべき原則であり、不払いの民事対応も受信料額もNHKの事業運営の自律性を確保してはじめて判断できることであり、「強制徴収」という甘言にそそのかされず、時の政権の指図は受けないことを国民の前に明言してほしい。

いまこそNHKは政府の方ばかり見ないで、国民に語りかける時だ。言論機関の面目にかけてガラス張りの解決をはかってほしい。(桜木七郎)

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