Tuesday, March 20, 2007

社説:放送法改正 行政の介入強化には反対だ

放送法改正案がまとまった。NHK受信料の支払い義務化は見送られることになった。ただし、ねつ造など事実と違う番組が放送された場合、放送局に対して再発防止計画の提出を求めることができるという条項が新たに加わった。

不祥事をきっかけに、受信料の不払いが急増し、NHKの改革と受信料徴収の仕組みをどうするのかが、放送法改正をめぐって問われていた。菅義偉総務相は義務化と受信料の値下げをセットで提示した。しかし、菅総務相が示した2割値下げをNHKが拒否したことから、義務化は見送りとした。この問題については、NHKの改革の動きを見ながら再度、検討することになった。義務化だけが先行し、NHKの改革は進まないということもあり得る。焼け太りを許さないためにも、見送りは妥当だろう。

一方、再発防止計画の提出は問題だ。この条項は、フジテレビ系列の関西テレビ(大阪市)が制作した「あるある大事典2」での番組ねつ造をきっかけに浮上した。問題のある番組が放送された場合、これまでは総務省が行政指導で注意や警告を行ってきた。それ以上の措置は電波法による放送の停止・制限、免許の取り消しだが、この間を埋める措置として、再発防止計画の提出が出てきた。ねつ造ややらせは、問題外の行為だ。しかし、事実であるのかそうでないのかについては、立場や考え方によって見方や判断が違ってくる場合も多い。番組制作だけでなく取材過程まで明らかにしないと、真偽がわからない場合もあるだろう。

また、現状でも、法的な拘束力はないものの、放送局は行政指導に従ってきた。これは総務省も認めている。そうなら、再発防止計画の提出の明文化は不要だろう。もちろん、放送局側も反省が必要だ。納豆ダイエット以外でもねつ造があったが、関西テレビの対応はお粗末で、自浄能力のなさが批判を浴び、行政に介入の口実を与える結果となった。

さらに、「あるある大事典2」でのねつ造発覚後も、TBSやテレビ東京で、制作過程での不適切な行為が明らかになっている。
再発防止計画の提出は、問題のある番組が増えていることが背景となっている。ただ、遅まきながら放送業界も対策を出している。

第三者機関の放送倫理・番組向上機構(BPO)に識者などでつくる委員会を設け、ねつ造などが確認された場合、勧告や見解を出し、放送局に再発防止策の提出を要求できるようにする。報道や番組の内容のチェックにつながりかねない条項は、言論や表現の自由という、憲法が定めている国民の権利に触れかねないという問題もはらんでいる。ねつ造などの問題番組は、放送業界の自主的な取り組みで解決すべきだ。当面施行は凍結するというものの、行政の介入拡大につながる再発防止計画の提出は、法案から削除すべきだ。毎日新聞 2007年3月21日 0時04分

No comments: