楽天が四月、TBS株の買い増しを表明し、両社の間で緊張が再び高まっている。楽天がTBSに急接近する背景には、株価を上げる一方、デジタルビジネスを広げていく狙いもありそうだ。放送と通信の融合が世界的な広がりを見せる中、楽天は今、何をしようとしているのか。慶応大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC)の中村伊知哉教授に聞いた。(小田克也)
――楽天がTBSに攻勢を強めているが。
「楽天が二〇〇五年にTBSの株を持ちだしたころから、放送と通信の融合はかなり進んだ。今回の楽天の動きは株価を上げるだけでなく、ビジネスをつくろうとしているのかもしれない」
――楽天は危機感を持っているのか。
「デジタルビジネスの動きは速い。放っておけば海外の動きにのみ込まれる。そんな危機感があるのでは」
――海外にのみ込まれるとは。
「ここ一、二年、米国では動画投稿サイトのユーチューブはじめ、アマゾンやグーグルが盛んにビジネス展開し、日本でも価格コムやアットコスメが出てきた。いわゆるネット利用者の参加型ビジネスだ。これに楽天がどう取り組んでいくかが一つのポイント。もう一つは、本筋である放送と通信の融合がかなり進んでいることだ」
――楽天にとってユーチューブは脅威か。
「ユーチューブは一種の広告市場になっている。ユーチューブで『松坂』と検索すると、米大リーグ・レッドソックスの松坂大輔投手の試合のテレビ放送を、誰かがクリップして送ってきている。日本のドラマやアニメなども見られる。僕がスポンサーなら、日本のテレビ局に何十億円の広告料を払うより、ユーチューブに出すだろう」
――楽天は、ユーチューブなどと競争し、広告を取らないといけない。
「そういうことだ。昨年の日本の広告費は、インターネットが三千六百億円で、雑誌とほぼ並んだ。新聞一兆円、テレビ二兆円市場を抜くのは五年後、七年後などといわれる。それくらい差し迫っている。どうやって広告を取るか。楽天の危機感は強いはずだ」
――放送と通信の融合をめぐる動きは活発なのか。
「すごく動いている。昨年一月、場面が変わった。ヤフーやグーグル、アップルコンピュータ、マイクロソフトなどが一斉に映像配信ビジネスをやると宣言した。それまで融合の主役は、通信会社のAT&Tとかメディア企業のタイムワーナーだったが、ITの会社になった」
――日本は遅れていると。
「楽天、TBSとかライブドア、フジテレビとか動きは出てきたが、本格的なビジネスとして立ち上がっていない。政府は著作権の問題を片付けようとか議論しているが、ビジネスモデルをつくれていない。だから民間は焦らざるを得ない」
――厳しい競争の中で楽天は、まずTBSの番組などのコンテンツを押さえようとしている。
「最初はそうだったと思うが、それがベストな戦法なのかどうか。というのも、ユーチューブのような新しいビジネスが出てきており、楽天のサイトでTBSのコンテンツをそのまま流しても商売になりにくい。だから一緒にコンテンツをつくろうとしているのでは」
――例えば楽天のサイトでTBSドラマのアニメ版をやるとか。他のサイトで見られないコンテンツを流せば利用者は喜ぶはずだ。
「そうだ。楽天がその具体的なメリットをTBSに示せれば、TBSも乗ってくると思う。だが多分、それはみんな、つくれていない。世界的にも放送局と通信会社が組んでうまくいった事例はまだない」
――そもそも、TBSに接近する楽天の戦略は妥当なのか。
「米国ではCBSもNBCもコンテンツを持っていない。持っているのはハリウッドの映画会社だったりする。日本の場合はテレビ局に集中しており、テレビと何かやろうするのは手法として間違っていないと思う」
Tuesday, May 08, 2007
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