◇国会に呼ばれたら反対表明
放送番組の内容に対する新たな行政処分を盛り込んだ放送法改正案が22日、衆院本会議で審議入りする。法案は、放送介入との批判が強い。日本民間放送連盟(民放連)会長を務める広瀬道貞・テレビ朝日会長は毎日新聞のインタビューに応じ、「国会審議に呼ばれれば、反対を表明するつもりだ」と明言した。総務省が、放送局に対して行政指導する際の放送法の根拠条文の範囲を広げている動きと併せて報告する。【臺宏士】
--放送法改正案の問題点は何でしょうか。
◆広瀬氏 本来、自由であるべきメディアの表現の自由が阻害されかねない。あいまいな表現が多く、あらゆる放送番組に総務大臣が介入し得る道を開く。法解釈を政府が決めて関与すると放送事業全体が萎縮(いしゅく)する。
--具体的にはどんな影響がありますか。
◆広瀬氏 政治問題に口を挟まれれば、民主主義を阻む。エンターテインメントならば、制作者らの創意工夫を萎縮させ、お茶の間の楽しみを奪う。政府の関与はできるだけ避けるべきで、番組に注文があるのであれば、放送事業者がつくる仕組みに委ねるべきだと主張してきた。報道が真実かどうかはメディア同士の取材合戦などによって担保されるべきだ。公権力によって確保されるものではない。
--菅義偉総務相は、放送界の第三者機関である「放送倫理・番組向上機構」(BPO)が機能している間は権限を発動しない、「抜かずの宝刀」だと言っています。
◆広瀬氏 大臣が代われば、解釈が変わることもあり得る。抜かずの宝刀ならば、何らかの形で法案に明記すべきだ。法案に書かれれば、大半の問題は解決されると思う。言葉だけでは到底、受け入れられない。国会審議で参考人として呼ばれれば、法案に反対の意見を述べたいと思う。
--BPO内に番組内容を調査する放送倫理検証委員会が発足し、会長は、「出直し的な改革」を打ち出しました。
◆広瀬氏 この1年だけをみても、おわびに至るケースがどの局も多かった。情報系のバラエティー番組が増え、バラエティーだから表現も相当許容されるという意識があったかもしれない。情報系と売り出す以上、きちっとしなければならなかった。脇が甘かった。民放連では、特定の番組が放送界全体の信頼を傷つけることに対して議論する場所がなかった。関西テレビによる番組ねつ造は起こるべくして起きた。ここで対応しなければ放送界の将来はない。
--総務省は、行政指導する根拠条文を拡大しています。
◆広瀬氏 番組に対する評価が視聴者と放送事業者との間で開きがあると、政府は口を出したくなるのだろう。放送法の規定は抽象的で線引きが難しいが、疑わしきものは調査していく。BPOがうまく機能し、権威あるものになれば、その対応を待とうということになるだろう。総務省は、何かあると放送法を盾に呼びつけてきたが、もう控えてほしい。名誉を回復する番組を放送するなどして決着したことに対して、さらに行政指導するのはおかしなことだ。
--放送行政は総務大臣ではなく、独立行政委員会が所管すべきだという意見があります。
◆広瀬氏 独立行政委員会なら放送内容に多少厳しいことを言ってもよいというものではない。番組内容についてはBPO的な組織に任せるのが最も進んだ知恵だ。
◇「放送法3条の3」、根拠条文を拡大--事業者へ行政指導、急増
総務省は、90年代半ばから政治的公平などを定めた「放送法3条の2」を根拠に番組への行政指導を強めてきた。番組基準を定めることを規定した「放送法3条の3」に違反したことを理由に放送事業者に厳重注意や警告などの行政指導をした件数は、03年度、04年度は各1件だった。06年度に6件に急増。07年度は早くも3件を数える。
昨年8月のTBSのケースでは、旧日本軍の「731部隊」を取り上げた報道番組で、記者が社内で電話取材している様子を撮影した際に、安倍晋三官房長官(当時)らの写真パネルが映った。TBSは、自社の放送基準の中で民放連の放送基準を準用することを規定。同基準には「名誉を傷つけないようにする」とある。同省は「チェック体制に遺漏があった」とし、厳重注意した。
また、TBSは今年1月、情報番組で、不二家の衛生管理について10年以上前の従業員の証言をもとに「期限切れのチョコレートを溶かして牛乳と混ぜていた」などと報じた。TBSは「牛乳のような何か、との証言を断定したのは誤りだった」として、4月に番組内で「誤解を招きかねない内容だった」と謝罪した。
同省は「事実を意図的に曲げたものではないが、若干の過剰な演出があった」として厳重注意した。行政指導が増えている点について、同省は「適用基準を変えて厳しく対応しているわけではない」とコメントする。
同じようなケースでも、自社基準が存在しなければ、総務省は行政指導を見送っている。昨年、1秒間に3回を超えて光を点滅させる映像手法を使った通販番組に関して、同省は、民放や衛星放送事業者については、民放連が作っているガイドラインなどに抵触したとして注意した。ところが、同じ番組を放送したCATV事業者には行政指導しなかった。業界にガイドラインがなかったためだ。
ガイドラインを作って対応している事業者の方が、それを根拠に行政指導を受けるちぐはぐな実態には、専門家の間にも批判が出た。これに対し、同省は、ガイドラインの作成を日本ケーブルテレビ連盟に要請。既に作成されており、指導を強める姿勢だ。
◇威嚇範囲が広い--清水英夫・青山学院大名誉教授の話
「放送法3条の2」は、倫理規定だというのが旧郵政省の認識だった。このため、同条を根拠にした警告や厳重注意などの行政指導は控えてきた。倫理規定ゆえに学説でも合憲派が多数で、かろうじて違憲性を免れていた。
番組基準を定めることを求めた「3条の3」に基づいた行政指導ができないというのは言わずもがなで、議論さえされてこなかった。だからこそ、事細かく書き込んであるが、これを基にした行政指導は「3条の2」と比べ、ずっと威嚇できる範囲が広く、問題だ。
==============
◆行政指導・関係条文
◇放送法3条の2
放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
1 公安及び善良な風俗を害しないこと。
2 政治的に公平であること。
3 報道は事実をまげないですること。
4 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
◇放送法3条の3
放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従って放送番組の編集をしなければならない。
==============
◆「放送法3条の3」に基づき行政指導した事例◆
04年3月 日本テレビ「踊る!さんま御殿!」「マネーの虎」(厳重注意)
05年3月 日本テレビ「カミングダウト」(同)
06年6月 TBS「ぴーかんバディ!」(警告)▽NHK「スーパーライブ」(厳重注意)▽テレビ東京「セサミストリート」など(同)▽岐阜放送「通販番組」「CM」(同)▽民放76社「通販番組」「CM」(注意)
7月 衛星放送事業者26社「通販番組」(注意)
8月 TBS「イブニング・ファイブ」(厳重注意)
07年2月 ジュピターサテライト放送「通販番組」(注意)▽インタラクティーヴィ「同」(同)
3月 関西テレビ「発掘!あるある大事典2」(警告)
4月 テレビ信州「ゆうがたGet!」(口頭注意)▽テレビ東京「今年こそキレイになってやる!正月太り解消大作戦」(口頭注意)▽TBS「人間!これでいいのだ」「みのもんたの朝ズバッ!」(厳重注意)
毎日新聞 2007年5月21日 東京朝刊
Thursday, May 24, 2007
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment