Tuesday, May 08, 2007

ネット革命が促す世界のメディア再編

日本経済新聞20070509

カナダの金融情報サービス大手、トムソンが英ロイターと経営統合交渉に入り、米ニューズ・コーポレーションが米ダウ・ジョーンズ買収を提案するなど、欧米メディア業界で新たな再編の動きが広がっている。米国では先月、不動産を本業とする富豪による新聞グループ大手トリビューン買収が決まったばかりだ。 

再編の動きの背景には、グーグルなどインターネット企業が台頭する一方で新聞や放送といった既存メディアの販売・広告収入が低迷しているという構造変化がある。既存メディアの収益力低下や株価の低迷が新たな再編の引き金になっている。ロサンゼルス・タイムズなどトリビューン傘下の日刊紙や、ダウ・ジョーンズが発行するウォールストリート・ジャーナルなど、新聞の部数減少は米欧で特に目立つ。一方、高速通信インフラの普及などにつれてインターネット広告の市場は拡大している。金融情報サービスも家庭向けに展開できるようになり、トムソンがロイター買収を狙うのは、この分野でトップのブルームバーグを追い抜くためだといわれる。 

新しいメディアや広告媒体として台頭したインターネット企業間の競争も激しい。米マイクロソフトと米ヤフーの提携交渉も先週、表面化した。マイクロソフトのネットサービス「MSN」は赤字、老舗のヤフーも昨年から減益が続き、グーグルへの対抗策を迫られていたからだ。 新旧合わせたメディア企業の世界的な再編のうねりはさらに続くだろう。メディアの再編と変貌(へんぼう)は、技術革新に伴う企業の消長という視点だけでなく、民主主義の基盤としてのメディアの独立性や情報の質という視点からも、広く社会全体で考えるべきテーマである。 

企業再編では収益性を優先しがちだが、メディアの重要な課題は言論・報道機関としての独立性、安定性をどう確保するかだ。ダウ・ジョーンズではオーナー家が大きな議決権を持ち、ロイターでは「発起人会社」の承認を必要とするなど、買収防止策を講じてきた。それは既得権を守る狙いではなく、言論や報道の自由を守るためのものである。 

インターネットの普及により、ブログなど個人が情報を発信できる機会も広まった。既存のマスメディアだけが言論や表現の自由を担保できるわけではなくなった。ネット革命という技術革新の中で、どういう情報サービスが収益性を保ちつつ、民主主義を担うメディアの役割を担えるのか。一連の再編の動きは、これからのメディアのあり方も問う。

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