Tuesday, May 08, 2007

メディアは変わるか<上>番組不祥事の防止へ 外部から人材登用を

今年に入り、放送界は情報番組「発掘!あるある大事典2」の捏造(ねつぞう)問題で大きく揺れた。また一連の不祥事を受けてNHKの改革も進んでいる。一方、四月には楽天がTBS株の買い増しを表明するなど「放送と通信の融合」も再びクローズアップされている。こうした動きを受けてメディアは変わっていくのだろうか、放送や通信の専門家に話を聞きながら考えてみたい。初回は、英国放送協会(BBC)に勤務した経験のある慶大法学部講師の原麻里子さんに、日本のテレビ局の現状をどう見ているか聞いた。(小田克也)

――「あるある~」のような問題はイギリスの放送界でも起きたことがあるのか。

「聞いたことがない。BBCは、番組の捏造などが起きにくい放送体制といえる。例えば報道番組。日本ではアナウンサーがニュースを読むことが多い。だがBBCでは、記者リポートがほとんどで、画面上も取材者が明らかになる。他のスタッフが関係することによる情報の誤りや捏造などの防止につながっているのではないか」

――BBCはコンプライアンス(法令順守)や内部統制も強化しているのか。

「日本では、大半の放送局が、編集ガイドラインを公表していない。だがBBCは、編集ガイドラインなどが公開され、インターネットで読める。規定を公表するのは、情報公開に加えて、自らの立場を守る意味もある。つまり何か起きたとき『規定には、こう定められている。それを自分たちは破っていない』と主張できる」

――BBCのガイドラインの特徴は。

「イラク戦争のときの情報操作疑惑報道の一件(注)で厳しくなった。速さより正確さが大事で、CNNに後れを取ってもいいじゃないか、と…。また、正当性を証明するため、取材時の録音の徹底もうたっている」

――日本とイギリスでは、テレビ局の組織体制も違うのか。

「BBCの現会長は、民放トップを務めたこともあり、BBC一筋ではない。つまり組織の中で、人が頻繁に入れ替わる。例えば、NPO法人にいて、アフリカで働いていた二十七歳の人が入局してくるとか…」

――日本の場合、テレビ局の政治部長や社会部長は多くが生え抜きだ。こうした部長クラスも他社から来るのか。

「そう。BBCには有名な雑誌『エコノミスト』や新聞社、そして民放からもくる。人が入れ替わるので、組織の腐敗、ひいては不祥事が起きにくい。職員は職場を変わるので、日本のように組織をかばうこともない」

――日本のテレビ局の改善すべきところは。

「中途採用を増やし、不祥事を隠しにくい体質にすべきだ。それから放送局の仕事は、海外に製品を輸出するメーカーなどと違って、もっぱら国内向けだ。外部の価値観を身につけにくい。だから複数の放送局が合同研修を行うなど、なるべく外に出る機会を増やすべきだ」

――話を伺っていて日本のテレビ局とBBCは、かなり違う印象を受けたが。

「放送うんぬんの前に、文化の違い、特に教育の差がある。例えば大学生のエッセー(リポート)でも、日本は出典などの表記があいまいだが、イギリスでは、どの文献から引用したか、きっちり書くよう教え込まれる。つまり引用や参照について、厳しい教育を受けており、放送局に入る前に、捏造などを起こしにくい人間になっているといえるかもしれない」

はら・まりこ 慶応大学文学部卒。テレビ朝日にアナウンサーで入社。1988年、BBCワールド・サービスに派遣され、日本語部プロデューサー(在ロンドン)を3年間担当。帰国後はテレ朝で報道局ディレクターを務める。同局退社後、イギリスのケンブリッジ大学大学院に留学。専門は社会人類学。東京都出身。

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