Tuesday, May 08, 2007

メディアは変わるか<中> 公共放送の再生へ

一連の不祥事を受けて改革を進めるNHK。その一環として昨年九月には、トヨタ自動車から金田新・専務をNHK理事に迎えた。経営の手本といわれるトヨタの気風を取り入れて体質改善を進めたいところだが、“官僚的”などとやゆされるNHKは、金田氏の目にどのように映ったのだろう。理事就任から半年余を振り返りながら問題点を語ってもらった。 (小田克也)
 
――NHKにおける自らの役割は。
「僕はNHKの人間ではない。職員と同じことを言えても貢献できない。違うことを言うのが役目だ。『和して同ぜず』というところかな」

――局内で日々、感じていることは。

「トヨタには『現地現物』という言葉がある。『現地で現物を見て判断しなさい。紙の上で判断していたら間違う』という意味だ。だから僕も三分間でもいいから番組を作らせて、と頼んでいるのだが…。抽象論で『公共を担う』と言っても何も分からない」
 
――NHKは不祥事が相次いだ。

「制度疲労があったのは事実。直さないといけない。制度だけでなく、人を動かす情念みたいなものも経営が責任を負うべきだ」
 
――職員をしっかり教育すべきだと…。
 
「成功体験を積み重ねることだ。日本人はほめられて伸びる人が多い」

――NHKが改善していくべきところは。

「新陳代謝はもっとしたほうがいい。若干、ゴムが伸びきった感じがする。疲弊しているというか…。一九八〇年当時は、関連団体を含めて一万八千四百人の規模だった。それでテレビは一週間当たり百七十一時間を送出していた。ところが今は一万七千百人ちょっと。それで昨年は六百五十時間もこなしている。どうやって力をためて番組制作に持っていくかだ」

――NHKを取り巻く環境も変わってきているのか。

「国際環境が激変している。一九八九年にベルリンの壁が落ち、一気に市場経済が出てきた。それは現在進行形で、その中でCNNはグローバル発信し、フランス24は、オピニオンリーダーのための放送だと言っている。一方、アルジャジーラはアラブの見方を提供し、中国中央テレビ(CCTV)もある。このように発信しだしているのは、国際社会の潮流の変化と無関係ではない」

――インターネットも普及している。

「技術の変化は大きい。若い人はユーチューブ(米国の動画投稿サイト)を見ている。映像も質が悪く、短いが、若い人は結構楽しんでいる。こういう環境変化の中で公共放送を担うことの意味も変わってきていると思う」

――NHKは大きく変わる環境にどう対応すればいいのか。トヨタに見習うところは。

「トヨタは創業理念について、大いに発言している。英訳もしており、一つの宗教のように外国に行って話している。自分の思うことを発信しようとする意欲、その結果についての自己責任、それは強烈なものがある」

――そのへんがNHKには足りない。

「法律がガバナンス(企業統治)を決めているという意味で、NHKは日銀と同じ。ただ法律を人から与えられたものでなく、自分のものにして、活性化し、発信していくことはできる。NHKは放送するのだから、まさに発信そのもの。放送記念日の特集番組など最近は、だいぶやっているが…」

――自らの仕事で、今後の課題は。

「声なき声を含め、視聴者がNHKに何を問いかけているか。それをまとめられないか、と考えている」

――声なき声をつかまえるのは難しいと思うが。

「でも革新的とは、そういうものだ。例えばiPod(アイポッド)なんかそうだ。『こういうものをつくってほしい』と言った人はいない。『こういうものがほしかった』と多くの人が言ったわけで、NHKが、そうした革新の担い手として、視聴者の期待に応えられれば、と思う」

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