Tuesday, January 30, 2007

[NHK番組訴訟]「報道現場への影響が懸念される」

メディアが委縮してしまわないか心配だ。東京地裁に続いて東京高裁が示した報道への「期待権」という新しい考え方に、戸惑わざるを得ない。いわゆる従軍慰安婦問題を扱ったNHKの番組を巡る訴訟の控訴審判決のことだ。題材となった「女性国際戦犯法廷」を主催し、取材に協力した民間団体が「事前説明と異なる内容に番組が変更された」として、NHKなどに損害賠償を求めていた。

民間団体側は「法廷」のすべてを紹介する番組になると思っていたが、実際には、昭和天皇に責任があるとした「判決」部分などが削除された。このため、裁判では、取材を受けた側の番組内容に対する「期待」が、法的な権利として認められるかどうかが争われた。

これに対し、東京高裁は1審と同様、「取材を受けた側がそうした期待を抱くのもやむを得ない特段の事情があるときは、番組制作者の編集の自由も一定の制約を受ける」との判断を示し、NHKに賠償を命じたのである。高裁が「編集の自由」を軽く考えているわけではない。「編集の自由は取材の自由、報道の自由の帰結として、憲法上最も尊重される権利」で「不当に制限されてはならない」としている。また、「期待権」との関係を考えるうえで、ニュース番組を、今回のようなドキュメンタリー番組や教養番組とは区別したりもしている。

ただ、懸念されるのは、編集の自由の制約に関する司法判断が拡大解釈されて、独り歩きしないかということだ。報道の現場では、番組や記事が取材相手の意に沿わないものになることは、しばしばある。ドキュメンタリー番組や新聞の連載企画などでも、より良質なものにしようと、編集幹部が手を入れたり、削ったりするのは通常の作業手順だ。

「編集権」の中の当然の行為だが、それすら、「期待権」を侵害するものとして否定されるのだろうか。2審では「期待権」の範囲がNHK本体にまで拡大された。そのため、報道機関全体に新たな義務が課せられる恐れが強まった。この訴訟では、もう一つの焦点があった。番組制作に政治家の“圧力”があったのかどうかだ。朝日新聞が繰り返し介入を報じ、NHKが否定したことで、大きな論争に発展していた。

これについて、今回の判決は「政治家らが具体的な話や示唆をしたとは認められない」との見方を明確に示した。NHKは判決を不服として、即座に上告した。「期待権」について、最高裁はどう考えるのだろうか。(読売新聞2007年1月30日)

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