Wednesday, May 31, 2006

[IP放送]「視聴者の不自由は消えないが」

6月1日付・読売社説(1)
[IP放送]「視聴者の不自由は消えないが」


「録画しなくても見たい時に見たいテレビ番組を楽しめるようになる」と期待していた向きはガッカリかもしれない。しかし、出演者の権利などを考えれば、妥当な内容ではないか。

IP(インターネット・プロトコル)放送の著作権問題を検討していた文化庁の文化審議会小委員会が、通常の放送の「同時再送信」に限り、著作権処理をケーブルテレビ(CATV)並みに簡素化すべきだ、との報告書案をまとめた。

これを受け、文化庁は秋に開かれる見通しの臨時国会に、著作権法の改正案を提出する方針だ。

IP放送は、光ファイバーなどの高速大容量通信網で、契約した顧客に映像を送信するものだ。KDDIやNTTなどの関係会社が、既にサービスを始めている。契約者は約20万世帯とされる。

CATVは、地上波や衛星による通常放送の番組を同時に放送している。その際、ドラマの脚本家や俳優などの著作権者らから事前に許可を得なくてもよい。放送の公共性に配慮した優遇措置だ。

しかし、IP放送は「通信」扱いとされ、放送する前にすべての出演者から許可を得なければならない。そのため、著作権の処理を終えた外国映画やアニメなどしか放送できないのが現状だ。

今回の改正は、地上テレビのデジタル化を進めるための支援策、という意味合いが濃い。

アナログ放送は2011年7月に停波する計画だが、一部でアンテナ設置などの準備が遅れている。総務省は難視聴地域にはIP放送でデジタル放送を届ける方針を決め、今年末に送信試験を予定している。文化庁は、その前に「同時再送信」を解禁する必要があった。

だが、改正が実現しても、2時間前に放送されたドラマを、IP放送で見ることは原則としてできない。NHKや民放の過去の人気番組も同様だ。

技術的には、このようなサービスは十分に可能だ。番組の流通促進と制作の活性化を狙い、政府の知的財産戦略本部などが、IP放送の著作権処理を大幅に簡素化するよう求めている。

しかし、出演者などの権利の強化は世界的な潮流だ。文化庁は、著作権者らの許可を得ずに、過去の番組を自由に呼び出すサービスは、国際条約に違反する恐れがある、と指摘する。

過去の番組は、放送事業者が著作権者らと協議して、適正な使用料を決めるしかない。新たに制作する番組は、IP放送での利用を考慮した契約が増えるはずだ。放送の「特権」を強引に拡大しなくても、放送と通信の融合は進む。

(2006年6月1日1時24分 読売新聞)

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